映画:「デトロイト」~誰の為に何を成すのか?~

こんにちは。

光光太郎です。


新年明けて早一か月。まだまだ浮かれ気分の方もいらっしゃるのでは?そんな方は社会の現実を垣間見て気分を落とすのも一興ですよ。


というわけで今回は実際にあった暴動と事件を題材にした映画


デトロイト


の感想を書いていきたいと思います。



■公式サイト

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■あらすじと解説

「ハート・ロッカー」「ゼロ・ダーク・サーティ」のキャスリン・ビグロー監督が、黒人たちの不満が爆発して起こった1967年のデトロイト暴動と、その暴動の最中に殺人にまで発展した白人警官による黒人たちへの不当な尋問の様子をリアリティを追求して描いた社会派実録ドラマ。67年、夏のミシガン州デトロイト。権力や社会に対する黒人たちの不満が噴出し、暴動が発生。3日目の夜、若い黒人客たちでにぎわうアルジェ・モーテルの一室から銃声が響く。デトロイト市警やミシガン州警察、ミシガン陸軍州兵、地元の警備隊たちが、ピストルの捜索、押収のためモーテルに押しかけ、数人の白人警官が捜査手順を無視し、宿泊客たちを脅迫。誰彼構わずに自白を強要する不当な強制尋問を展開していく。出演は「スター・ウォーズ 最後のジェダイ」のジョン・ボヤーガ、「レヴェナント 蘇えりし者」のウィル・ポールター、「トランスフォーマー ロストエイジ」のジャック・レイナー、「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」のアンソニー・マッキーら。脚本は「ハート・ロッカー」「ゼロ・ダーク・サーティ」も手がけたマーク・ボール。(映画.comより引用)



■雑感

非常に重苦しく、それでいて146分が一瞬で過ぎていく映画でした。語り口がスマートかつ丁寧ですぐに作品世界へ入り込めますし、鑑賞中に「このシーンいらなくね?」と思う瞬間もなし。夜のシーンが多いのですが、見にくい箇所がないのもうれしい所です。また、重い内容の映画ながら、鑑賞体験をスムーズにすることにも気を配っていました。そして常に観客へ思考を促し最後にはほっぽり出し、ドキュメンタリーではなく劇映画としてメッセージを放つその手腕に惚れ惚れしました。

キャスリン・ビグロー監督の作品は未観ですが、戦争モノが多いようで、本作もかなり戦争色が強くなっています。人種差別による暴動を戦争と捉えているかのようです。



■デトロイト暴動事件をどう語るのか?

本作は1967年に起こったデトロイト暴動事件と、暴動発生3日後に起きたアルジェ・モーテル事件を題材にしています。事件そのものを伝えるのであればドキュメンタリーが最適だと思いますが、監督はあくまでも劇映画、フィクションの力で伝えることに拘ったようです。

ではどんな切り口で事件を語るのか?ハッピーエンドはありえない事件をどう物語へ落とし込むのか?そこが映画化のキモですが、私には「戦争のメタファー」に見えました。監督はデトロイト暴動事件を「戦争の縮図」として捉え「一市民はどう行動すべきか?」という落とし所へもっていったのではないでしょうか?


「戦争のメタファー」に見えた理由は以下の3点です。

①差別被差別両陣営をフェアに描く

②マクロな事態に翻弄されるミクロな人達

③思想と思想のぶつかり合い




①差別被差別両陣営をフェアに描く

まず映画の冒頭では暴動の背景についてアニメーションで説明されます。

何故黒人たちはデトロイトへ来たのか?デトロイトに住む黒人達はどんな状況下にいるのか?白人たちはどう接しているのか?これらをテンポのいい風刺効きまくりなアニメーションで見せてくれるので、背景理解も物語へも一気に没入。観客の感情移入が被差別側へ移った直後、その感情移入を揺さぶる出来事を叩きつけてきます。


無許可営業のバーとその客が警察によってしょっぴかれ、強制連行。この逮捕劇には黒人刑事も参加していますし、正当(の様に見える)なのですが、大勢の黒人を連行する様子を市民…黒人が目撃し「横暴だ!」とヤジを飛ばし始めます。中には明らかに冗談半分でからかっている人達もいるのですが、言葉とテンションの魔力は恐ろしく、一気に暴動が勃発。デトロイトの町は焼き討ちにあい黒人たちによる略奪が相次いで発生していきます。これまでの白人たちによる迫害は確かに惨いですが、無関係な相手や街を救おうとする消防士まで襲うのはどう考えても「善」ではない。


逮捕にあたっていた白人黒人達全員が極悪なわけではなく、ヤジを飛ばす黒人達も全員が暴力的ではないでしょう。しかし、これまでの経緯が人々を暴動と力による弾圧へと駆り立てしまいます。


個人個人の思想は複雑ながら、二極化した思想に徐々に飲み込まれてしまい、あることをきっかけに後戻り出来ない状況になる。決定的な善悪はどちらにもない。これ、戦争発生のメカニズムと非常によく似ていると思うんですよ。


遂に「開戦」した暴動ですが、今度はその渦中にいる個人へと物語の視点は移行していきます。




②マクロな事態に翻弄されるミクロな人達

暴動は当初

黒人側の「白人の理不尽への反抗だ!」と

白人側の「黒人の暴動を抑えるぞ!」とのぶつかり合いでした。

しかし徐々に「黒人VS白人」という大きな大きな図式となり、この空気感は爆発的に広がります。黒人は無差別な反抗、白人は白人正義を名の下にした暴力執行そのものが目的化していきます。アルジェ・モーテル事件に関わった白人警官も犠牲となった若者達も、マクロな視点と言葉に、目の前にいる人を見ない者達に翻弄された被害者と言えます。


悪辣に描かれ、アルジェ・モーテル事件の主犯格となる3人の白人警官達(演じるウィル・ポーター、ベン・ウトゥール、ジャック・レイナー全員最高の演技!)も、暴力を正当化する流れに飲み込まれてしまった様にも見えます。彼らが心の底からのレイシストなのかどうかは、作り手も観客も分からないのです。ただ、彼らが起こした(と思われる)事件は確かに存在し、人が死んでいることもまた事実です。



③思想と思想のぶつかり合い

マクロな暴動の中で起こったミクロな事件、アルジェ・モーテル事件での出来事は正に「戦争の縮図」でした。

アルジェ・モーテル事件に関わった人たちとその立場をまとめると…


加害者:デトロイト市警の3人

建前→市民を脅かす狙撃犯を探す

心情→犯罪者予備軍達をまとめて逮捕したい

  →黒人は全員敵であり自分たちは正義


加害者より傍観者:州兵

建前→市民を脅かす狙撃犯を探す

心情→狙撃犯を探したいが無関係な黒人を巻き込みたくない

  →デトロイト市警を守る側なので暴行に介入できない?


被害者:黒人宿泊客と白人女性2人

建前→従わないと殺されてしまう

心情→白人警官の思い通りになりたくない


被害者より傍観者:警備員

建前→市警と州兵に協力

心情→事態を無事に早く収めたい


傍観者:州警察

建前→黒人への理不尽暴行は人権無視なのでやめるべき

心情→人権問題は複雑なので見て見ぬふり

  →助けられる者は助ける


「誰が銃を撃ったか?」について延々と拷問しますが、ここで重要なのは犯人探しではなくそれぞれの立場にいる人達の心情描写であり、緊張のやり取りであり、そこに見える思想のぶつかり合いです。犯人はいないとなるとデトロイト市警が抱く「黒人は全員敵」という思想を否定することになり、理不尽をふるう側の言うことを聞くとなると黒人側は心まで屈することになってしまう。傍観者はこの強烈なぶつかり合いに身を任せることしかできません。結局このミクロな思想のぶつかり合いがマクロな問題を引き起こしていくことにもなります。局地戦をピックアップされプロパガンダに利用されるように…。



■誰の為に何を成すのか?

今作は様々な人物の視点が入れ代わり立ち代わりしますが、主人公と言えるのはシンガーソングユニット、ザ・ドラマティクスのラリーでしょう。彼は自身の成功の為に、レコード会社へ聴かせるために舞台で歌おうとします。しかし暴動に巻き込まれた結果、彼はアルジェ・モーテル事件にまで関わってしまいます。なんとか生き残りはしたものの、白人が聴くための音楽は歌いたくないと、ザ・ドラマティクスを脱退。その後失意の底にいた彼は、同じ苦しみを持つ人たちの為に教会で歌うことを始める…という所で今作は幕を閉じます。


今作を彼の物語として捉えると、利己的行動から利他的行動へと成長する物語だと言えます。そしてこれは、作品全体を貫くテーマです。


前述した通り「黒人VS白人」という対立構造が支配するデトロイトの中でも、人道的な視点をもって行動する人は大勢います。もちろん、デトロイト市警の中にも。命からがら逃げだしてきたラリーを救ったのは、私が傍観者と評した州警察です。


マクロな思想の波に飲み込まれ、痛ましいことが起き、自分ではどうしようもない状況に置かれたとしても、誰かの為に何かを成す。それこそがミクロな一市民に残された唯一の救いにして、最強の反抗なのではないでしょうか?




■薄い雑感

・キャスティングの妙。ヒーロー役者のアンソニー・マッキーやジョン・ボイエガらがいることでホンのすこしの娯楽性が生まれ、しんどすぎないバランスになっていた

・ラリーのファッション最高

・おっぱい見えるけど全然嬉しくない展開…

・多用される不自然なズームアップがホームビデオっぽくてリアル

・復員兵をGIジョー(アメリカのミリタリアクションフィギュア)って呼んでた

・ニュースでもNワード言ってる…




■終わりに

人種差別による暴動を戦争のメタファーとして描くという重い映画であり、問題が全く解決されない結末でありながら、さりげなくもヒロイックな落とし所へ持って行った今作。惜しくもアカデミー賞は逃したようですが、観る価値は間違いなくある一作です。


あと鑑賞前は必ずトイレに行きましょう!

私はクライマックス直前にトイレに行ってしまいました!!!!!!!!!




町山さんの解説を読んでから観るとより分かりやすくなります。

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