映画感想:「ヴィジット」 ~ホラー映画入門~



ごきげんよう。

光光太郎です。


ホラー映画に抵抗を持つ人って多いですよね…。見どころが絞られてるしビックリするしケレン味もあるし面白いと思うのですが、イマイチ受けがよろしくない…。そんな状況を何とか打開したいと考えていると、ふと

「あれ?そういえば映画館でホラー映画観たこと、一度もないな…」

ということに気が付きました…。

今までは全てディスク鑑賞、つまりTVでしか観たことがなかったんですね。これはいけない!と思い、やっと東北で公開された


ヴィジット


を観てきました。今回はその感想をネタバレ全開でつらつらと書いていきたいと思います。

※全くのネタバレ無しで観た方が間違いなく面白いです。




■あらすじ

休暇を利用して祖父母の待つペンシルバニア州メインビルへとやってきた姉弟、ベッカとタイラーは、優しい祖父と料理上手な祖母に迎えられ、田舎町での穏やかな1週間を過ごすことに。祖父母からは、完璧な時間を過ごすためにも「楽しい時間を過ごすこと」「好きなものは遠慮なく食べること」「夜9時半以降は部屋から絶対に出ないこと」という3つの約束を守るように言い渡される。しかし、夜9時半を過ぎると家の中には異様な気配が漂い、不気味な物音が響き渡る。恐怖を覚えた2人は、開けてはいけないと言われた部屋のドアを開けてしまうが……。(映画.comより引用)


■概要

この映画「ヴィジット」は、「シックス・センス」や「ヴィレッジ」を撮ったM・ナイト・シャマラン監督の最新作です。どんでん返しや妙なユーモア感覚等の独特な作風の監督さんですね。私は上記の二作品しか観たことがありませんが、「ヴィレッジ」は強く印象に残っています。後輩から進められ「ホラー映画だ!」と思ってみたらどえらいフックを叩きこまれたような映画でした。まぁそもそもシガニー・ウィーバー(エイリアン等)とエイドリアン・ブロディ(プレデターズ等)が出ている時点で面白いことは確定です。


私が観たこの二作品に共通していることは「『見てしまった感』が上手く演出されている」ことでした。両作品ともに異形の存在が登場するのですが、その見せ方が非常に淡泊なんですね。今、そこにそれがいる、という状況それ自体を見せることで、観客が「見てしまった」という感覚を抱けるようにしている、という感じでしょうか。それがコメディに見えてしまうシーンが多々あるのが面白い所です。勿論今回の「ヴィジット」でも、爆笑シーンてんこ盛りです。いや、怖いんですけどね。笑えるんですよ。


この「ヴィジット」では、そういった監督の特徴が炸裂しています。何と言っても「POV方式」で撮られていますからね!姉のベッカはどうやら映画通らしく、この祖父母訪問旅行を記録映画にするべく一部始終をカメラで撮影しています。この映画は、その撮影で使われているハンディカメラの視点で進んでいくので、撮影している人物(およびカメラ)の「見てしまった、見えてしまった」という体験が、そのまま観客にシンクロされます。

監督の特徴が、ストーリー構造及びお話の骨格と一致する撮影方法となっているわけですね。映像に字幕などが入っていることも考えてみると、この「POV方式」が非常に上手く利用された映画だということがよく分かります。


■感想

まず全体の感想ですが、

「子役が最高にイイ顔をする、希望に満ちた映画」

です。


面白いと思った点は次の通りです。

①子役

②色鮮やかな画面

③POVという方式を活かした物語構造



①子役


画面右の人物が姉ベッカを演じるオリビア・デヨングさん、左の人物が弟タイラーことTダイヤモンドを演じるエド・オクセンボールド君です。真ん中の方が監督さんですね。

この映画、とにかくこの子役2人がイイんですね。イイ顔、イイ若者演技をしてくれるんです。

特筆すべきは弟役のエド・オクセンボールド君ですね。彼のこまっしゃくれたあの表情!可愛い!生意気!可愛い!生意気さやおませな感じを見せるのですが、本質は可愛い素直な子供ということが伝わってくるあの演技、表情にはやられました。鑑賞中ずっとニヤニヤしてましたね。そして、やるときにはやる!

姉役のオリビア・デヨングさんも負けず劣らず、子供なりに親の心情を理解し行動しようとする、気丈な長女を見事に演じていたと思います。髪がボッサボサなのも良いですよね。しかしこの方、すらりと伸びた手足が綺麗ですねぇ…長袖長ズボンで隠れているのがもったいないですね。そして、やるときにはやる!


この両者は劇中において、大きなトラウマを抱えています。その弱さを垣間見せながらも、お互いに傷つけ合うことをしても、起こった事態や大人、自分自身に必死に立ち向かおうとする姿勢には、震えずにはいられません。腹筋も震えましたけどね!




②色鮮やかな画面

「ヴィジット」では、鮮やかな色が目立つ場面が多くありました。特に子供たちの服と瞳の色の鮮やかさは印象的です。しかし祖父母の家周辺は、その鮮やかさとは対照的に地味目な暗い色が目立ちます。不穏な色、と言ってもいいかもしれません。

家の内部は色鮮やかなことを考えると、何とも皮肉というか…。




③POVという方式を活かした物語構造

この映画はPOVという方式を活かした、かなり特殊な構造になっています。つまりこの映画自体が「旅行映像を編集した、ベッカ製作の記録映画」であるということです。


こういった構造にしたことで、POVならではのカメラ視点に

①撮影者=登場人物の視点

②姉弟が持っていない時のカメラの視点(傍観するしかない観客の視点)

③編集者の視点

という3つの視点を持たせています。

①の視点では、今カメラを持っている人物の視点になるので、その人物の心情にシンクロすることが出来ますし「見てしまった感」が抜群なわけですね。特に際立っていたのは「床下のかくれんぼ」「尻」「首吊り」「タイラーが止まる」でしょうか。

大体①の視点で進んでいくので、時折②の視点になった時には映像全体に緊張が張りつめてきます。カメラが絶対に動かないということを観客も分かっているので、正に事態を傍観するしかないんです。そこを逆手に取ったおばあちゃんシーンは最高でしたね!

そして、この映画を独特な構造足らしめている③の視点ですが、この視点があるからこそ、この映画が希望溢れる感動的な物語になっているのだと思います。つまりこの姉弟は、2人にとってトラウマ級の出来事であるこの旅行映像を見ながら、それを忘れてはいけない物語として残すために編集を重ね、正に記録映画を作った…ということです。

2人にとっても、そして母親にとっても正視しがたいこの映像=出来事を受け止め、前に進もうとしている姿勢が、編集された映画そのものから伺えることから「ヴィジット」が単なるPOVホラー映画でないことが分かります。最後を笑えるシーンで締めている所が、またいいですよね…。



面白かった点を振り返ると

①子役

②色鮮やかな画面

③POVという方式を活かした物語構造

となっています。ホラー映画としての「恐ろしさのキモ」を抑えつつ、登場人物達の明るい今後を示しているところが、本当に素晴らしいなと思います。あの子役たち、もう一度見たいなぁ…。




続いて、残念だと思った点を挙げていきます。

①決定的な恐怖描写不足

②子供たちの対策不足

③ネタバレ絶対禁止



①決定的な恐怖描写不足

ウワっ!となるシーンはいっぱいあるのですが、決定的な恐怖描写が少なかったのは残念ですね…。もっとこう、心底恐ろしくなるような展開、描写が欲しかったところです。血も出ないしグロイシーンもないし…。

不安をあおる描写や「見てしまった感」で心理的不安や恐怖を盛り上げていく事が軸であることは分かるのですが、パンチ不足は否めません。おばあちゃんに比べておじいちゃんが拍子抜けだったことも残念でなりません。



②子供たちの対策不足

この年代の子供は、自分の身の回りに起こっていることが全てですし、他人に話を聞くメリットをあまり体験していないのかもしれませんが、それにしても対策がずさんだと思わずにはいられません。町の人に話を聞くとか、知った後にもポケットに何か忍ばせておくとか、色々な対策がとれたはずです。


③ネタバレ絶対禁止

これは私が全面的に悪いのですが、東北ではどうせやらないだろうとネタバレをガッツリ見てしまっていたんですね…。そしたら公開から数か月後にこちらでも公開決定と…。ネタバレ無しで観た方が心底面白い体験ができたはずなのに…!悔しい!




残念だった点を振り返ると

①決定的な恐怖描写不足

②子供たちの対策不足

③ネタバレ絶対禁止

となっています。もっともっと直接的なホラーが見たかった、に尽きます。あとはネタバレ…。



総括すると、

子供の底力が炸裂する、希望溢れる不安系ホラー映画の傑作

というところでしょうか。


「ヴィジット」で描きたかったのは、恐ろしい事態、目を背けたい現実を受け止め、自分の糧としてゆく姿勢の尊さだと思います。ホラー映画が作られ、それを観る意義というものを私に再認識させてくれた傑作です。そして、人に勧めやすい清々しいホラー映画でもありました。


ホラー映画入門として、安心して観れる作品です。おススメです!

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