映画感想:クリムゾン・ピーク ~遂に東北上陸!ギレルモ・デル・トロによる、となりのトトロと愛の物語~



ワクワクもんですね。

光光太郎です。


先日「パシフィック・リム地上波放送決定!」という衝撃のニュースが飛び込んできましたね。地上波という事なので上手いことカットされ、テンポの良くなった作劇とフルで流れる戦闘に期待大ですよ‼


そんなギレルモ・デル・トロ監督作に関するニュースがホットなこの頃ですが、遂に私が住む東北の映画館に彼の新作映画


クリムゾン・ピーク


がやってきました。上映館が限られていましたが早速鑑賞してきましたので、そのネタバレ感想を書いていきたいと思います。いやぁ、まさか「となりのトトロ」を感じるとは思いませんでしたね…!



■あらすじ

10歳の時に死んだはずの母親を目撃して以来、幽霊を見るようになった女性イーディス(ミア・ワシコウスカ)。父親の謎の死をきっかけに恋人トーマス(トム・ヒドルストン)と結婚することになった彼女は、トーマスや彼の姉ルシール(ジェシカ・チャスティン)と一緒に屋敷で暮らしはじめる。その屋敷は、冬になると地表の赤粘土が雪を赤く染めることから「クリムゾン・ピーク」と呼ばれる山頂にあった。ある日、イーディスの前に深紅の亡霊が現われ、「クリムゾン・ピークに気をつけろ」と警告する。(映画.comより引用)


■概要

言わずと知れたオタク監督、ギレルモ・デル・トロ監督による「ゴシック・ロマンス」映画です。パンフレットにゴシック・ロマンスについての分かりやすい説明が書いてあるのですが、ざっくり言うと「秘密渦巻く暗鬱な館を舞台に、可憐な乙女が脅かされる、ゴーストが出る物語」です。私はあまりゴシック・ロマンス作品を観たことは無いんですが、直近に観た「回転」という映画は、変則的なゴシック・ロマンス作品でした。そういえば「クリムゾン・ピーク」には、この「回転」を意識したような場面が多くありました。白いドレスを着た女性がろうそくを持ち、暗い館を探索するという絵面は正にその通りというか。

私はデル・トロ監督の作品は「ミミック」「ブレイド2」「ヘルボーイ」「ヘルボーイⅡ/ゴールデンアーミー」「パシフィック・リム」しか観ていませんが、彼の作品にはいつも「大好きなジャンルが持つ様式美と本質への畏敬」と「大好きな要素同士の合体」、そして「とてつもない作りこみ」という要素が入っているんですね。正に、好きの嵐が巻き起こっているんですよ。その作り手としての真摯さ、語り手としての表現へのこだわり、そして徹底した遊び心に、私たちは魅了されてしまうのだと思います。


「クリムゾン・ピーク」のキャスト陣は「アリス・イン・ワンダーランド」のミア・ワシコウスカを主役に、「マイティ・ソー」における唯一無二のロキ役者であるトム・ヒドルストン、「ゼロ・ダーク・サーティ」のジェシカ・チャスティン等、ゴシック調の世界観を信じられるような、どこか浮世離れした風貌の人物達でまとめられています。脇には「パシフィック・リム」でお馴染みの面々が出ていて、少し笑ってしまいましたね(笑)。


「クリムゾン・ピーク」はゴースト、つまり幽霊が出る映画なのですが、ホラーだという言及がない通り、真に恐ろしい恐怖表現はほぼないといってもいいでしょう。出てくる幽霊も怖いは怖いのですがクリーチャー然としているため、どこか安心感があります。カタカナで「ゴースト」と表現するのがしっくりくる見た目をしているんですね。前述した「回転」はジャパニーズホラーの源流と言われるほどの作品なので、正に凍り付くような恐怖表現で演出された幽霊が出てきます。この「回転」は心底好きになれた映画なので、別途レビューを書くつもりです。

恐怖として扱われないにも拘わらず、何故ゴーストが出てくるのか…そこに本作が物語ろうとしている軸があると思うんですね。私はその軸が「女の子が愛を知り、語り手になる話」であると思います。ここからは登場人物達の紹介を交えつつ、その軸について触れていきたいと思います。


物語の主人公であるイーディスは、富豪の父の下で成長した箱入りのお嬢様です。彼女は自立心からか小説作家=物語の語り手となろうとするのですが、人生観の浅さからその作品は受け入れられません。また、華やかな社交界に生きる他の女性とは対照的に、インクに汚れることも厭わない性格ですが、自分を貶める発言へ噛みつく、他者からの自分への愛に気づかない等といった幼さも持っています。

(ここでは同時に1900年代の一般的な女性観を描いているので、後に出てくるトーマスが以前に結婚していた女性たちがどんな人達だったのだろうか、ということを表現しているのだと思います。)

しかし、そんな彼女の幼さ故の素直な気持ち、愛情が、トーマスに愛を抱かせていくんですね。そして彼女もまた、トーマスやルシールとの対峙を経て、愛というものをその身に受け、成長していきます。


「クリムゾン・ピーク」においてイーディスが劇中で触れた主要な愛は、次の通りになるかと思います。

①母からの愛を受けるが、気づかない⇒最後に理解する

②アランからの愛を受けるが、気づかない⇒最後に理解する?

③トーマスへ愛を感じ、トーマスからの愛を感じる⇒不安から裏切りを確信し、そして愛を理解する

④ルシールの愛を目撃し、対峙する⇒理解し、物語として紡いでいる

彼女は様々な愛を受け、愛を求め、愛を目撃し、愛を理解していきました。そしてゴーストの物語も、愛の物語も語ることが出来なかった彼女が、ゴーストの、人間の愛を物語として紡ぐ語り手となったことを示し、「クリムゾン・ピーク」は終わりを迎えます。



イーディスを荒涼とした館へと誘うトーマスもまた、愛に翻弄されます。

彼は資金を得るために偽りの愛を女性たちに与え、結婚詐欺と殺害を繰り返します。彼が愛していたのは、実の姉であるルシールただ一人だったのです。しかし、イーディスからの素直な愛を受け、自分自身の内から新しく湧き出る愛に苦悩しながらも、その愛を認めていきます。そして彼は、歪んでしまった姉を救うために、そしてイーディスを守るために、死んでいくんですね。ですが、彼のイーディスとルシールへの愛は死してなお強く残りました。


「クリムゾン・ピーク」の劇中において、最も深く、そして狂った愛に生きた女であるルシール。

彼女は凄惨な家庭環境で育ったためか、自分が主導権を握れる愛、つまり実弟であるトーマスとの愛にのみ生きています。だからこそ、イーディスからの家族愛的思いも全く寄せ付けません。執念深くねじ曲がり、人の人生を壊してきた、故に深い深いその愛は、イーディスに大きな影響を与えることになります。



伝わらない愛、芽吹く愛、曲がった愛、むき出しの愛、執念の愛…イーディスは人の心が最も生々しく現れる「愛」を通して、他者の心や人生といったものを感じていったのだと思います。「クリムゾン・ピーク」は、一人の女の子が物語を語りうる存在へと成長する、ジュブナイルものでもあったんですね。





そして何よりも「ギレルモ・デル・トロ監督節」が炸裂している映画でもありました。というかまぁ、この部分が観たくてデル・トロ監督の映画を観る人が殆どでしょう。大まかな「らしさ」は前述した通りですが、「クリムゾン・ピーク」で感じた拘りは次の3つでした。


・昔話としてのゴシックホラーという形式に敬意を抱いている

・好きな要素モリモリ

・生物的グロ描写


これらを軸にしつつ「クリムゾン・ピーク」の物語は進んでいきます。今作のお話の流れとしては、


ラブロマンス⇒となりのトトロ⇒サイコサスペンス⇒スラッシャー執念バトル


といった感じでした。滅茶苦茶に詰め詰めですが、好きで好きで堪らない様式美作品に新たな味を加えるという、正にザッツデル・トロ印の作品でしたね。このお話の流れに沿って、デル・トロ印溢れる今作の様子を書いていきたいと思います。


ラブロマンス

まずトム・ヒドルストンが映ってラブロマンスしているだけで嬉しくなってくるというか、男の色気に陶酔してしまいます。批評するときの演技も「演技」に揺れる内面を感じるし、キスシーンのあまりの扇情的な様子には思わず目を背けてしまいましたよ…。ミア・ワシコウスカの、美人なんだけどどこか野暮ったい雰囲気ともいい対比になっていました。

しかし!そこは「ミミック」や「ブレイド2」を撮ったデル・トロ監督です。ある殺人シーンで「そこまでやるのかよ!」と言いたくなるほどに、徹底してリアルな撲殺描写をぶち込んできます。ここのシーンが見ているだけで痛くなってくるので、ダメな人はほんとダメだと思いますね。R18レベルと言っても過言ではないでしょう。


となりのトトロ

グロありなラブロマンスが終わったら、なんと「となりのトトロ」がやってきました。トトロのどこにワクワクするかって「田舎のギミック満載な家描写」でしょう。

中盤以降の舞台である館は、日頃生活していた場所とは全く違う価値観で出来上がった空間であり、長年の生活感と昔の文化が生きる空間であり、ギミックと小道具満載の部屋の数々…まさに異次元空間!ワクワクの宝庫!見ているだけで楽しくなってきます。正しくデル・トロ印なクリーチャー然としたゴースト達も、まるでまっくろくろすけやトトロのようです。

また、照明の塩梅が工夫されているためか、画面に映る全ての美術のエッジが立っているように見えることも、デル・トロ監督作の特徴であると思います。それは館だけでなく、イーディスがもともと暮らしていたNYでもそういう魅せ方をしていました。この魅せ方があるからこそ、私たちはリアルとはどこか違う異世界を見ているような、そんな感覚を抱いてしまうのだと思います。

しかしこの館、ほんとに建てたっていうのだから驚きですよね…。

サイコサスペンス

トトロでほっこりしていると、徐々にサスペンスの様相になってきます。トーマスやルシール、お城の謎を決定的な証拠を元に徐々に紐解いていく過程は緊張感があり、孤独なイーディスの状況も相まって差し迫ったものを感じます。遠方のアランがイーディスを思って謎を追う過程も並行して描かれる為、飽きることはありませんでした。しかし、サスペンスの肝心要の盛り上がりどころや決定的目撃の瞬間のインパクトは弱いと言わざるを得ないですね…。館と役者の魅力に負けている印象です。


スラッシャー執念バトル

本作随一の見せ場。登場人物達の愛と憎悪のぶつけ合いです。ルシール対トーマス、トーマス対イーディス、ルシール対イーディス…そのどのぶつけ合いも、愛ゆえに起きるものであり、この対決によってそれぞれのキャラクターは決定的に変革していくことになります。

愛と執念によって鬼神と化したルシールとイーディスの戦いは鬼気迫るものがあり「戦い馴れていない危うさ」同士の戦いからくる「一撃食らったら死亡」の緊張感も相当なものである。まぁ、それをルシールが超えることにもカタルシスがあるのですが…。筋肉ゴリラとか美麗ファイターでなく「美しい容姿を持つ女性同士の殺し合い」というのも新鮮でした。

そして両者に愛を伝えるため、幽霊となって現れたトーマスとの邂逅により、二人の戦いは終わりを迎えます。ただ「さっきも聞いたわ」は余計でしたねぇ…。


とまぁこの通り、悪く言えば雑多でまとまりがないという感じの映画なんですが…(笑)。しかし!前述した通り、デル・トロ監督の「俺はこれが好きなんじゃい!」のほとばしりが観たいがために私は彼の映画を観るので、これはこれでありなんです!「愛の物語」という軸は一本通っていますしね。

デル・トロ監督!次もまた、拘りに拘った物語を魅せて下さいね!!




さてさて、ここからは個人的な感想を書いていきたいと思います。

まず面白いと思った点ですが、次の3点です。


①眼の診察用ガジェット

いやー。メカ好きにあの造形は堪らんですよ!あんなにガチャガチャ色々ついていて、スチームパンクとも木製ともとれるような…一瞬しか映らないからよく分からなかったんですが、とにかく好きですね!粘土掘る滑車よりタイプです。


②パシフィック・リム組の強烈な存在感

パシフィック・リムにおいて強烈な数学者を演じていたバーン・ゴーマンは、今作では探偵を演じています。しかしそのもみあげと突き出したような口…そんな見るからに怪しい探偵がいるか(笑)!存在感ありすぎです(笑)。

ジプシー・デンジャーのパイロットことチャーリー・ハナムはイーディスの幼馴染である医者を演じていましたが、どう見ても医者の体じゃないんですよ(笑)。ガタイの良さと優しいまなざし、そして口の形から、どう見てもローリー・ベケットに見えてしまうんです…。

なんというか、豪華なカメオ出演を見せられているような気分になりましたね。


③ベッドシーン

何とも書きづらいんですが、一言。ベッドシーンでのドレスの使い方には思わず「なるほど!」と唸ってしまいました。



次に残念だと思った点について、3つ書いていきます。


①食事シーンが見たかった

館において何度か食事の機会があるのですが、食べ物がしっかりと映ったり食事をする描写があまりないんですね。節約生活をしているという設定があるのなら、その土壌を活かしたメニューを是非とも拝見したかった…。あの朝ご飯は何だったんだろう…。


②ゴーストの登場シーンの短さと、扱いの軽さ

今作はゴーストストーリーだともうたわれているのですが、それにしてはゴーストの登場シーンがあまりにも短く、母親以外のゴーストの扱われ方も軽いと言わざるを得ません。ゴーストの造形はとても凝っているのですが、赤黒すぎて正直どれがどれだか直ぐには分からず、理解するのが少し大変でした。赤黒い造形に意味があるのは分かるのですが…。

もっともっとガッツリ絡ませて欲しかったです…。


③粘土採掘機の試行錯誤を描かない点

トーマスが作る粘土採掘機。これはかなりイかしたガジェットなのですが、劇中では未完成の段階で登場します。それが段々と完成に近づいていく過程もお話の途中で見せているのですが、どこが問題で、どう改良して完成していったかが殆ど触れられないんですね。これはメカ好きとして、モノづくりを楽しむ者として釈然としない部分です。粘土採掘機のフォルムがちょくちょく見れるのはいいのですが、試行錯誤の様子も軽くで良いので見たかったですね…。



総評としましては、愛を通じて物語の語り手へと成長する少女の成長譚として、そしてギレルモ・デル・トロ拘りの仕事の一つとして、十二分に楽しむことが出来る作品でした。調べてみたところこれから様々な劇場で公開されていくようなので、デル・トロ好きな方は是非劇場へ行ってみて下さい!オススメです!


俺の話は俺がする

映画からプリキュアまで

映画感想記事トップ3

0コメント

  • 1000 / 1000