ワクワクもんですね。
光光太郎です。
今回は「シネマーズハイ」を感じた映画である
ヘイトフルエイト
原題:The Hateful Eight
の感想をネタバレ込みで書いていきたいと思います。アカデミー賞の作曲賞しかし、ここまで感想を言葉にできない映画は初めてですよ…。しかしこれ、ミステリーではないですよねぇ…。そこからもう「嘘」が始まってるわけですが。
■作品情報、あらすじ
「イングロリアス・バスターズ」「ジャンゴ 繋がれざる者」のクエンティン・タランティーノ監督の長編第8作で、大雪のため閉ざされたロッジで繰り広げられる密室ミステリーを描いた西部劇。タランティーノ作品常連のサミュエル・L・ジャクソンを筆頭に、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンズ、デミアン・ビチル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーンが出演。全員が嘘をついているワケありの男女8人が雪嵐のため山小屋に閉じ込められ、そこで起こる殺人事件をきっかけに、意外な真相が明らかになっていく。音楽をタランティーノが敬愛する巨匠エンニオ・モリコーネが担当し、第88回アカデミー賞で作曲賞を受賞。モリコーネにとっては、名誉賞を除いては初のアカデミー賞受賞となった。70ミリのフィルムで撮影され、画面は2.76:1というワイドスクリーンで描かれる。(映画.comより引用)
70mmのフィルムは超横長の大迫力画面、正に映画でしか体感できない迫力なのですが、なんと日本ではその仕様で観られないという…。残念。
それではひとまず、観た直後のツイートをば…。
「ヘイトフルエイト」を観た。
— 光光太郎@3月5日マッドマックスinチネ (@masachika3350) March 4, 2016
友人Tと一緒に観たのだが、二人とも終わってから暫く席を立てなかった。トイレに言って初めて交わした会話が「どうだった?」。
いつもはTに矢継ぎ早に話す俺だが、今回ばかりは彼の反応を伺う必要があった。自分が何を観たのか、整理できていなかったからだ。
この友人T「ヘイトフルエイトを観ないか?」と声をかけたところ二つ返事で了承してくれたのですが、なんと鑑賞直前に「タランティーノ監督作品」「R-18」という事を初めて知ったんですよ(笑)。アクションものだと思っていたようで、酷く驚いていました。
友人のタランティーノ監督経験は、以前に私を含めた数人で「ジャンゴ 繋がれざる者」を観た程度で、私も「イングロリアス・バスターズ」を追加で観ている程度です。二人とも「ヘイトフルエイト」にはタランティーノ監督の「明朗快活、痛快娯楽」な部分を期待していたのですが…。鑑賞直後の反応はツイートの通りで、二人とも放心状態というか…。結果、トイレをしながら二人でひねり出した初めての感想が、
「面白いともつまらないとも分からないが、とにかく凄いものを観た」
「映画とはこんなことも出来るのか…」
というもので、いままで観た映画とは全く違うものを観た…そんな感じでした。
その後蕎麦をすすりつつ、この作品についてワイワイ言いながら少しずつ読み解いていきました。箇条書きにすると次の通りです。
・上質な演技合戦
・長い長いワンショット
・独特なエンドロール
→上記3つの要素から「ヘイトフルエイト」は、1960年代以前の映画の魅力、つまり「上質な役者の演技と美麗でデカい画面」を体現させようとしているのではないか?
・美術が日本人!
・序盤が長―――――い
・どいつもこいつもクソ野郎
・寒そう
・密室内でのストーリー進行の魅せ方、特にピントや歌が秀逸
・コーヒー飲みたい
・衣装と美術が最高にイカす。着たい。
・派手に吐きすぎ(どうやってんだ?)
・チャニングテイタム、コーヒーとシチューと血まみれ
・「そうは言ってない。」は真似したい
しかし「結局何がいいたい話だったのか?」は難航しました…その結果
ハッタリが強いやつが強い
という結論に。
未知の「凄まじい」映画を観て、友人とじっくり解釈していくことが出来た、素晴らしい映画体験をくれた作品になりましたね、「ヘイトフルエイト」は。鑑賞感想は全くヘイトフルじゃない(笑)。
それではここから、私個人が考えてみた物語の軸について書いていきたいと思います。この「ヘイトフルエイト」には、大きな二つの軸がありました。それは前述した「ハッタリ強いやつが強い」と「『正義を行う』とは何か?」という事だと思います。
まず一つ目ですがこの作品、ハッタリは最強。これに尽きると思います。最後の「リンカーンの手紙」の描き方をみても明らかで、ハッタリだろうが嘘だろうが、相手に信じ込ませる力があれば、それは「いい創作」なのだと。フィクションの力、そして喋りの力を誰よりも信じるタランティーノ監督らしい作品だと思うので、彼が「最高傑作」と評価しているのが納得できますね。
まぁ、劇中で繰り広げられるハッタリ合戦は「いい創作」とはとても呼べない、ヘイトフルなものでしたが(笑)。しかし清々しさすら感じるようなクソ外道っぷりを見せてくれるので、不快感はほぼ無かったですね。グロイ描写も痛いというよりかは、爽快感と笑いが勝ります。痛さで言えばR-15の「クリムゾン・ピーク」の方が数倍酷い。
このハッタリ合戦は、超絶長回しのワンショットで撮影されています。普段観ている映画では、その場面を「見る」段階でシーンがカットされますが、この映画では長く長く撮ることで「映像を全身で体感する」という段階まで押し上げているんです。映像の全てが意味を持って脳に、体に浸透していくような…。こういった体験をしたのは初めてでした…。
これは単に長く撮るだけでは成立せず、そのキャラクターがそこにいるとしか思えない役者陣の超絶的な怪演があるからこそ、初めて成立するものだと思います。限界ギリギリまで高められた役者の技巧と魂が、長い長いワンショット映像に憑依していたんですね。演技だけでなく、音楽や美術、衣装、撮影全てに魂が宿っていたことも勿論です。
これは正に嘘を魅力的に信じ込ませる「いい創作」だと思うんですよ。「ヘイトフルエイト」を映画館の大スクリーンで観れば、ランナーズハイならぬシネマーズハイになってしまうことは自明の理。嘘を本物と信じさせてくれる、体感させてくれるシネマーズハイ。
会話劇を映画館で観る意義を、改めて再認識できた作品になりましたね。
続いて二つ目「正義を行う」とは何か?についてです。
この映画には、おおよそ「正義」というものが存在していないように思えます。どいつもこいつもクソ野郎なふるまいしかしません。劇中で話される様に「主観で殺す」奴か、理不尽な暴力を「客観」で振るう奴、そして人種差別主義者ばかりです。しかしその中で唯一、悪者を客観で殺そうとする男、人を人として見る男がいます。そう、ジョン・ルースです。彼は賞金首を敢えて生かして連れていき、首吊りで死刑にしようとします。決して自分では殺さず(滅茶苦茶殴ってたけど)、客観的な視点を持つ法の守り人によって、正式に罰を与えようとしているんですね。黒人であるウォーレンに対しても、同じ北軍人として接していました。
この「首吊り」というものが本当に正しい手段なのかどうかはさておき、少なくともジョンルースはクソ野郎だろうが差別対象だろうが、当時の「正義」と「信用に足りうるもの」に準じて接していたんですね。その一本気な姿勢が、最後に人を動かすことになりました。嘘とクソ野郎にまみれた中でこういった人物を描いていることに、この物語の救いが見えてきます。
クソ野郎ばかりが出て、外道な行いをしまくりますが、そこで描かれる「フィクションの力強さ」と「軸を通す強さ」が際立って輝く作品でした。何度も繰り返しますが「ヘイトフルエイト」は、近年上映されている映画とは全く異なる映画作品でした。つまり、シネマーズハイを体験出来るってことですよ…!
ここからは超個人的な感想を書いていきたいと思います。まずは面白いと感じた点から…。
①衣装と美術が最高にイカす
②訛りが面白い
③食べ物飲み物が美味しそう
①衣装と美術が最高にイカす
何と言ってもまず目を引くのが、素晴らしく「イイ」衣装でしょう。ウォーレンの北軍軍服のカッコよさは言うに及ばずですが、それぞれが着るコートの違いも面白いですね。私は衣装やファッションに詳しいわけではないのですが、特にメキシコ人のボブが着る超ガッツリしたコートが好きです。
そして、種田陽平さんが手がけた美術の細やかさ!あの「ミニーの紳士服飾店」の生活感は堪らないですね…。木のくたびれた感じとか、コーヒーを入れるポット、シチュー関連の小道具…ああいうのが観れるからこそ、映画を観るんですよね…!過去と現在で「店内自身が持つ活力」が全く異なって見えるところも凄いんですよ!
最近衣装に惹かれて映画を観ることが多くなりましたねぇ…。
②訛りが面白い
私は「多国籍、多地域言語描写」が徹底されている作品が大好きなので、タランティーノ監督の「イングロリアスバスターズ」や「ジャンゴ 繋がれざる者」も大好きなんですね。詳しい訳ではないんですが、多用な言語が飛び交う場面というだけで面白さを感じてしまうんです。
この「ヘイトフルエイト」でも様々な言語、というよりも訛りでしょうか。大好物ですよ!イギリス気取りのモブレーやメキシカンのボブのいかにも「らしい」訛りはニヤニヤしながら聴いていました。
ただこの作品で最も印象的な訛り、というか発音をするのは、マニックスをおいて他にはいないでしょう。特に何回も「リンカーン?」を連呼するシーンは最高でしたね(笑)。ああいうのが聴きたいから映画を観るんですよ!
③食べ物飲み物が美味しそう
ブラックコーヒーを飲みたいって話ですよ。あんなにガブガブ美味そうに飲まれたら堪りませんよ…。付け合わせにミントのキャンディーバー?とジェリービーンズがあれば最高ですね。コーヒー飲みながら映画観てたらトイレに行きやすくなりますが…。
ただシチューだけは何とも…音も「ボチャ」という汚いものでしたし、嫌な会話をしているシーンでは不味そうに映しているということでしょうか?
それでは次に、残念だと思う点について書いていきます。
①70mmカメラに対応していない映画館で観たこと
②いくら何でも長すぎる
③単純明快な娯楽要素がもう少し欲しかった
①70mmカメラに対応していない映画館で観たこと
これはどうにも致しかた無いことですが、残念ですよ。70mmカメラ対応劇場であれば、本来意図した効果が堪能できるのに…。しかも日本公開版は本国版よりも20分カットされているとか。一度観てみたいものですが、そのためには海外に行く必要があるんですよね…。
②いくら何でも長すぎる
いくらなんだって168分は長すぎだと思います。店に行ってからは緊張感が続く為長さは感じないのですが、特に序盤は退屈する場面が多かったですね。これはこの映画の魅せ方に乗り切れていない、つまりシネマーズハイになっていない状態だったことと、本来意図した70mmカメラの演出を再現できていないことが原因でもあると思います。まぁここまでくるとこの長さが愛らしくなりますが、Blu-rayで観たら途中で寝そうですね…。
③単純明快な娯楽要素がもう少し欲しかった
私も友人Tも今作に対しては「娯楽作品」であることを求めていました。カッチョいい音楽に台詞、身のこなし、凄惨なバトルシーン等等…単純にぶちあがることの出来る場面を楽しみにしていたんですが、基本会話劇なためそういったシーンは少な目でした。痛快な凄惨シーンは大量にありましたが…。しかしこれは、テーマとしてそういった「娯楽の為の殺人シーン」を敢えて入れなかったのだと思います。
総評としては「シネマーズハイをありがとう」に尽きますね。物語作品として伝えたいコト、メッセージ性や娯楽性よりも「映画館で観る映画における極上の体験」をさせてくれたことに、本当に感謝しています。あと二作で引退…などしないで欲しい…!
とにかく、良い悪いを超越した映画体験が出来るので、オススメですよ!R-18要素もほんの一瞬だし(笑)。
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