ごきげんよう。
光光太郎です。
遂にイギリスで公開され、初週の興行収入が歴代最高となった映画「007 スペクター」。
日本公開まで一か月を切り、私の中で007シリーズはかなり盛り上がっています。そんな今回は、前回レビューした「007 カジノ・ロワイヤル」の続編である
007 慰めの報酬
のレビューを書いていきます。なるべくネタバレ無しでいきたいと思います!
↑テンション高めな、前作のレビューです。
■あらすじ
カジノ・ロワイヤルでの激闘後、恋人「ヴェスパー」との壮絶な別れを体験したボンド。
彼女を死に追いやった「組織」を追うが、復讐心に囚われるあまり無策な行動を続けてしまう。「組織」やCIA、そしてイギリスの手によってMI6の貫くべき正義が揺らぐ中、ボンドは謎の女性「カミーユ」や灰色の男「マティス」と共に、諸悪の根源である組織幹部「ドミニク・グリーン」へと戦いを挑んでいく…。
■概要
「007 慰めの報酬」(以下「慰めの報酬」)はダニエル・クレイグさん演じる6代目ボンドの2作目にして、「007 カジノ・ロワイヤル」(以下「カジノ・ロワイヤル」)の続編です。前作「カジノ・ロワイヤル」が007の誕生を描いた物語であったのに対し、今作では007の完成を描いた物語であると言えます。
続編と言っても前作のラストシーンの数分後から始まるレベルなので、「カジノ・ロワイヤル」の視聴は必須です。恐らく事前に観ておかないと、「慰めの報酬」の内容は3分の1も分からない状況になってしまいます。「慰めの報酬」自体の内容も詰め詰めなので、私は初見時に前作を視聴してから臨みましたが、3分の2程しか理解できませんでした…。
今作では6か国を跨いだ世界規模のお話ですが、前作以上にリアルでシリアス、暗めなトーンになっています。これは現実の水資源問題を扱っていることも1つの要因ですが、今作で描かれるテーマが「復讐と赦し」という一筋縄ではいかないものになっていることが最大の要因です。この「大人のエンタメ」を感じさせる魅力が堪らないんですよね…。特に私の様に背伸びしたい盛りの若者の心をグッと鷲掴みにしてくれます。ゾッコンですよ!
しかし、この「慰めの報酬」は製作チームは前作から引き続いているにも関わらず、世間的な評価が芳しくありません。007的なお約束が殆どない=007に見えない、脚本家協会のストライキでまともな脚本がない、上映時間が「カジノ・ロワイヤル」より約40分短い100分強、ガチャガチャしすぎて見辛いアクション、多発する撮影トラブル、字幕が某なっち等等…様々な問題点が運悪く集約されています…。
確かに問題点はもうハッキリとした問題点なのですが、私はどうしてもこの「慰めの報酬」を嫌いになることは出来ません。それは「カジノ・ロワイヤル」でこのシリーズに惚れ、ダニエル・クレイグボンドの世界に惚れこんでしまったからなんですね。だって私、レンタルした「慰めの報酬」を3回観ましたから!3回!(比較がありませんが…)
それでは、詳しい感想を書いていきたいと思います。
■感想
まず全体の感想ですが、前述しているように
「不満点多し。しかし、嫌いになれない深みがある…!」
です。
良かった点としては次の3点です。
①本音を語らない、含みのある登場人物達
②許せない悪党の描写
③世界規模のお話
①本音を語らない、含みのある登場人物達
登場人物に本心をそのまま喋らせないことは上手い映画の手法であると言われていますが、「カジノ・ロワイヤル」でもその傾向は強く出ています。登場人物達は本音を誤魔化しながら喋りますし、物語の核心をそのまんま喋ることはほぼありません。
「カジノ・ロワイヤル」での分かりやすい例としては、マティスの裏切りや登場時のヴェスパー等でしょうか。前者は「マティスはCIAの事を知らないはずだから、やつは裏切ったんだ!」なんてことをボンドは言いませんし、後者は「私はあなたが嫌いです」とストレートには言いません(態度は超ストレート)。この「本音を語らないスタイル」は「慰めの報酬」ではほぼ全編に渡って突き通されています。
まず冒頭でのM(ボンドの上司)との会話シーン。ここでMはヴェスパーについての情報をボンドに伝えるのですが、その内容は言わば「恋人を思ってのヴェスパーの死は無駄であった」というもの。これをMは直接言葉で伝えず、状況を伝えるだけに留めています。この場面でMはさらに、ボンドを気遣いつつも信用に足る状態かどうか見定めているようにもとれる話をします。Mの優しさと職務としての立場、仕事を感じさせる名会話であると思います。
これをストレートに台詞で言うと「ヴェスパーの死は組織によって仕組まれたものなの。あなたは恋人の死がショックで眠れてないようだけど大丈夫?あなたは私が信頼できる男なの?」になりますね。台無しです。
(このやり取りの後に吹替え版のボンドが言う「髪を一束…そんなセンチメンタルな女じゃなかった」という台詞が最高に好きです。)
これに限らず「慰めの報酬」では、登場人物の心情は誤魔化されながら語られていきます。事実は事実としてしっかり語られるのですが、心情や事態の核心は断片的とも言える情報しかくみ取れません。状況や人とのやり取りから少しづつ様子を観察し、言葉や行動の裏にある心情と核心を読み解く…そんな面白さが「慰めの報酬」にはあると思います。特に、ボンドの積み重ねが集約されていくラストは息をのんでしまいますし、心底カッコいいと、そして過酷な世界だな…とも思ってしまいます。
登場人物達が基本仕事人であり「大人」なので、本心と建前を分離して行動しているからこその面白さでもありますね。だから1週間で3回も観てしまうんですね。そして、燃えるところではこれ以上ない程ストレートに「心」を言ってくれるんですよ…!1週間に3回は観てしまいました!
②許せない悪党の描写
物語に悪役は付き物ですが、その悪役が強大であればあるほど「戦う必然性」が生まれますし、立ち向かう主人公たちが映えます。
その点で言うと、「カジノ・ロワイヤル」のメイン悪役である「ル・シッフル」は、最初のボンドガール殺害は衝撃的でしたが、仕事の失敗をポーカーで取り返すために頑張る苦労人的な側面が強く、「絶対的な悪党」にはあまり見えませんでした。というか若干可哀想とも思える見せ方だったと思います。
それに対して今作「慰めの報酬」では、メイン悪役のドミニク・グリーンが「極悪非道のド外道」としてしっかり描かれています。しかも、彼自身が直接人を殺すシーンは全く描かずに、です。彼は人の命を「自分の為に使う道具」位にしか考えていないということが随所で見て取れるのですが、その描き方は多方面に向けて徹底されています。
自分の女であるカミーユに対しても、協力者に対しても、罪なき人々に対しても、そしてボンドに通じる人に対しても、この姿勢は変わっていません。なので「コイツは絶対に倒さないといけない」という物語の軸線がハッキリとしますし、魅力的な悪役に見えるわけです。終盤での協力者に対する脅しシーンは最高でした…!
しかし最も恐ろしいのは、今作で行われていた悪行が、私たちが生きている、今この瞬間にも現実に起こっているということです。
③世界規模のお話
今作では6か国を跨いでボンドの活躍が描かれています。国が登場する度に画面にクレジットが表記されるのですが、色々な国をめぐっての活劇、というだけで心が躍ってしまいます。ロケーションがアメリカチックでないのも良いですね。
この様に数多くの国で撮影されることで、ボンド自身の活躍がメリハリを付けて描かれています。港のボートバトルから砂漠での爆発まで、場面転換だけでも面白くなっていましたね。また、敵組織の暗躍が世界規模であるということが分かりやすくなっています。単純ですが、敵の強大さを示す有効な方法ですね。
良かった点振り返り
①本音を語らない、含みのある登場人物達
②許せない悪党の描写
③世界規模のお話
カジノ・ロワイヤルより40分時間は減っていますが、①で取り上げた要素で深みをだし、②の要素で物語の軸を固め、③でエンタメ作品にしています。まぁ、ほぼ「カジノ・ロワイヤル」とセットで観るべき作品なので、これくらいの時間でちょうどいいのかもしれません。
続いて、残念な点について書いていきます。
①見辛すぎるアクションシーン
②理解が追い付かないほどに詰め詰めの内容
③分かりづらい字幕
①見辛すぎるアクションシーン
今作は冒頭からカーチェイスが始まるのですが、一連のシーンがとても見辛い…。カチャカチャ頻繁に変わるカメラワークに位置関係を把握しづらい画の連続…今何が起こっているのかの把握が困難なレベルでした。ボンドの車と敵の車がパッと見同じに見えるというのも要因だとは思いますが、いくら何でもあれは酷い…。前作「カジノ・ロワイヤル」でもアクションシーンは数多くありましたが、そのどれもが見やすく、状況を把握しやすい作りになっていたことがよく分かります。
その他にも街中でのパルクールやボートバトル、砂漠でのバトルなどは状況把握しづらいアクションシーンでした。共通している特徴としては「位置関係が分かりづらい」「移動の経過が分かりづらい」「敵と味方が分かりづらい」が挙げられると思います。分かりやすいアクションシーンを撮る、ということは、本当は難しんだよということが逆説的によく分かる体験でした。
②理解が追い付かないほどに詰め詰めの内容
前述している通り、今作の上映時間は「カジノ・ロワイヤル」よりも約40分短い106分です。しかし私は初見時、この時間の映画とは思えない程に疲れてしまいました…。それは良い感想の所で書いた「言葉や行動の裏を読む」ということを、ほぼ全編に渡って行ったからです。さらに字幕版だったのでより必要な処理が増えてしまいました…。
とにかく「慰めの報酬」では絶えず事態が進行しており、画面内で起こっていることを把握する前に次の状況になるということが頻繁に起きます。特に顕著なのは、ホテルでの襲撃からカミーユとの邂逅、別れまでの一連のシーンですね。こちらに考える隙を与えずにドンドンとお話が進んでいくので、ちょっとでも気を抜くと何が何やら分からなくなってしまいます。つまり、分かりやすい言葉で表現したり、落ち着いて状況を判断する場面があまりないんですね。特に字幕版に顕著でした。
絶えず突っ走る物語の姿勢は今作のボンドそのものとも言えますが、もう少し落ち着いてもいいのでは…。と思ってしまいます。
③分かりづらい字幕
前述した通り、今回は圧倒的な密度とスピード感で物語は進んでいきます。その中で表示される字幕情報が本当に断片的で…。誤魔化した表現の英語→調子の分からない字幕で表示→それを読みながら場面を把握、という行程を踏むので、字幕が初見では何が何やら分からないままお話が進んでいきました…。私の理解力不足も多分にあると思いますが、吹替えで見たら10倍分かりやすかったので、字幕の表現に不備があったと思えてなりません。
なので初見の方は、吹替え→字幕の順で観ることをお勧めします。
残念な点を振り返ってみると
①見辛すぎるアクションシーン
②理解が追い付かないほどに詰め詰めの内容
③分かりづらい字幕
となります。う~ん…この中でどうにも擁護できないのは①と③ですね。②は魅力的な部分でもあると思うので…まぁ限度がありますが。
総括すると、
不満点や気になるところは多分にあるが、圧倒的な密度感と本音を隠し黙して語る登場人物達に惚れる
という感じですね。
世間の不評の理由も分かりますが、私はどうしても「慰めの報酬」を嫌いになることは出来ません。あの世界の登場人物達が好きですし、何よりも「カジノ・ロワイヤル」を完結させた作品でもあるからです。
「007 スペクター」でも今作の内容が密接に関わってくるようなので、これから観る人も、復讐、おっと復習しようと思っている人にとってもお勧めの一作です!
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