映画感想:「007 スペクター」 ~ダニエルボンドとは?~



ごきげんよう。

光光太郎です。


遂に公開された007シリーズ最新作「007 スペクター」。日本での興行収入も好調なようで嬉しい限りです。

さて、前回は先行上映の勢いに任せてこんな記事を書きましたが、



今回は


007 スペクター


のレビュー記事を書いていきたいと思います。ネタバレ全開です。

そして今回、とても長いです。端的にまとめると「ダニエルボンドは007の呪縛から解き放たれたのではないか?」ということを長々と書いています…。



■あらすじ

「スカイフォール」で焼け残った写真を受け取ったボンドは、そこに隠された謎を追って単身メキシコ、ローマと渡っていく。その過程で悪名高い犯罪者の美しい未亡人ルキア・スキアラと出会ったボンドは、悪の組織スペクターの存在を突き止めるが……。(映画.comより引用)



■概要

007シリーズの24作目にして、ダニエル・クレイグさん演じる6代目ボンドの映画4作目になります。なんでも今回の撮影中、ダニエル・クレイグさんは負傷して手術を受けたとか…そこまでして作りたい、伝えたいモノがあったのですね。

監督は前作「スカイフォール」に引き続きサム・メンデスさんが務めています。どの映像をとってもまるで写真のような、デザインされた画作りが特徴的な監督さんですね。そして「スカイフォール」に引き続き、007作品の様々なオマージュを詰め込んでいます。特に顕著なのは「女王陛下の007」ですね。要復習作品ですよ!

テーマソングはサム・スミスさんが歌う「Writing's On The Wall」で、しっとりとしていながら芯の強さを感じるラブソングとなっています。この曲に合わせて流れるOP映像の美しさ、官能さと言ったら…!筆舌に尽くしがたいですね‼最高です!

そして今回は007史上でも多額の製作費がつぎ込まれた作品であり、7950リットルのガソリンを使った爆発シーンはギネス記録にのったとか…。

その他にも、町全体が文化遺産であるローマでのカーチェイス撮影(世界で10台しかないマシンの内8台を使用。残り2台はプロモーションに使用)、400トンもの人工雪を降らせてのオーストリアでの撮影、1万1000通もの申請書を送って実現させたイギリスでの撮影等等…「カジノ・ロワイヤル」から続く「ものづくり、映像づくりのこだわり」をビンビンに感じます。


他にも「スペクター」をめぐる権利関係等様々な要素があるのですが、それらについては私以外の人がとても詳しくまとめておられるので、そちらをご参考下さい…。


全体的な作品の印象を書いておくと、

・「007 スカイフォール」に引き続き、メタ的な作品では?

・ダニエルボンドの「物語」と「役割」にけじめをつけた一作

・詰め詰めな割にそれぞれの要素が妙に薄い

・悪役の魅力不足

です。今回は特に「ダニエルボンドのけじめ」について注目していきたいと思います。そしてここからしばらく「007 スペクター」自体の話は出てきません‼



■私の007遍歴

前に記事でも書きましたが、私は007を観始めて2カ月程しかたっていない「にわか」ファンです。シリーズを全作見ているわけでもなく、007の知識を完璧に持っているわけでもありません。

しかし、今回の「007 スペクター」は、そんな私でも「007の歴史」と「現代のダニエルボンド」のマッチ感をビンビンに感じることが出来たんですね。そして、「007 スペクター」は過去作を予習した方が間違いなく楽しめます。というより、過去作視聴前提の作りになっていると思います。


なのでここでは、私が今までに観てきた007作品とその概要、そして私が感じた007シリーズの魅力について書いていきたいと思います。


まず今までに観てきた007作品とその概要を列挙していきます。結論としては最も観た方がいい作品群を観ることが出来た、ということが言えます。



●007 ドクター・ノォ(1962)

シリーズ1作目にして1代目ボンド=ショーン・コネリーの初登場作品。

まだ007的お約束は確立していないが、モテモテの男が繰り広げるスパイアクションという軸は、ここから既に貫かれている。そして「スペクター」という組織の存在も、ここから既に明示されていた。シリーズ1作目から、ボンドとスペクターの因縁は始まっていた。

OPはシンプルながら、エレガントさとエンターテイメントを感じさせる。


●007 ロシアより愛をこめて(1963)

シリーズ2作目。スペクターとの戦いをシリアス寄りに描いた作品。

ボンドガール、秘密兵器等等、徐々にお約束が確立してくる。東西冷戦時代の空気感は緊張感があり、物語の雰囲気も終始シリアスでリアル。特に列車内での死闘は、今の目で見ても凄まじい緊張感があり「勝利のロジック」も分かりやすく、燃えやすい。

個人的には、ショーン・コネリーボンドの作品群では最も好きな作品。

OPはとっても変態的(褒めてる)。


●007 ゴールドフィンガー(1964)

シリーズ3作目。「007とはなにか」を決定づけた作品。

シリーズのお約束が全て確立した作品であり、007の世界観がよく分かる入門編として勧められることが多い作品。ボンドカー、アストンマーチンの初お披露目でもある。今回はスペクターは登場せず、突っ込みどころありまくりの痛快娯楽アクション大作になっている。

OPは、前作よりも変態的(褒めてる)。


●007 サンダーボール作戦(1965)

シリーズ4作目。美しいバハマの海を舞台に、スペクターとの壮絶な戦いが展開される作品。

壮絶なケンカアクション、水中バトルは一見の価値あり。秘密兵器も水中用が多く「大型ブーストボンベ」は燃えるガジェット。そしてとにかく海が美しい。

OPは見惚れる美しさ。赤と青の対比、死とセックスの暗示に陶酔。


●007は二度死ぬ(1967)

シリーズ5作目。日本を舞台にスペクターと死闘を繰り広げる作品。

大規模な日本ロケが行われた作品で「そりゃないよ」という日本描写がてんこ盛り。そんな風呂はねぇ!ショーン・コネリーの顔からも色々伺ってしまう…。夏休み向け痛快娯楽アクション大作として楽しめる作品だと思う。登山を舐めるな。

OPは「赤」に見惚れる。


●女王陛下の007(1969)

シリーズ6作目。2代目ボンド=ジョージ・レーゼンビーの登場作にして引退作。

これまでの荒唐無稽路線はなりを潜め、リアルにシリアスにスペクターとの戦いを描き切った作品。スペクターとの緊張感のある戦い、圧巻のスキーアクション等見どころは多いが、最大のポイントは「ボンドが結婚する」ことだろう。何故あのボンドがそこまで女に惚れたのか?そこがとても丁寧に、劇的に描かれている。「ジェームズ」という台詞に惚れます。

OPはこれまでの振り返り的な内容になっており、007がこれまでを抱えつつ先へ進んでいくことを暗示しています。


●007 死ぬのはやつらだ(1973)

シリーズ8作目。3代目ボンド=ロジャー・ムーアの初登場作品。

これまでの007作品のオマージュが随所に見られ、かつ、ロジャー・ムーアボンドのコミカルな空気を織り交ぜている「再出発作」。「007 スペクター」の監督であるサム・メンデスさんが最も好きなボンド作品として取り上げており、それもあってか、「007 スペクター」ではこの作品のオマージュがかなり多い。

OPは「カジノ・ロワイヤル」を思い起こさせるような、軽快でエンターテイメント色が強い曲「Live and Let Die」が使用されている。そして、「007 スペクター」のOPに多大な影響を与えていると思われる。


●007 カジノ・ロワイヤル(2006)

シリーズ21作目。6代目ボンド=ダニエル・クレイグの初登場作品にして、マイベスト007作品。

「007になるまでの話」を描きながら、007シリーズのお約束を取り払い、007を現代でもう一度描きなおし始めた一作。動から静へ変容していく物語の面白さ、ヴェスパーとの死別、OP等、見どころてんこ盛りなド級娯楽作品。

そしてダニエルボンドは、物語的にもメタ的にも、とある「呪縛」に囚われていくことになる。

OPのカッコよさは歴代随一。白黒から「血」で色鮮やかな世界に変わっていく演出は皮肉ながら、見惚れずにはいられない。


●007 慰めの報酬(2008)

シリーズ22作目。前作のけじめと「エージェントとしての007」の完成を描いた作品。

アクションの見辛さや駆け足気味なお話等欠点は多いが、それを補ってあまりある魅力に溢れた一作。何よりも、ヴェスパーとの死別に区切りをつけたボンドの背中に成長を感じる。しかしここでも、ヴェスパー殺害の真の黒幕は判明しなかった。

「クァンタム」という組織が登場し、スペクターという「007を代表する敵組織」の今後の登場を予感させていたが、それが現実となった。

OPは、銃で狙いを定めるボンドが渋い。


●007 スカイフォール(2012)

シリーズ23作目。007という作品群を俯瞰した視点を持つ、独特な作品。

サム・メンデス監督のアーティスティックな画作りの中で、時代遅れになったボンド=007作品そのものの「死」と「復活」を描き切った一作。過去作オマージュに溢れ、007作品を現代で描き続ける意義を示した。

そして、ダニエルボンドが背負う「役割」もはっきりと示された作品となった。

OPはもう、最高。曲も最高、映像も最高。言うことなし‼



と、色々列挙して来ましたが、まとめると

・ショーン・コネリーボンドは「ダイヤモンドは永遠に」以外すべて観た

・2代目、3代目ボンドを一作品づつ観た

・ダニエルボンド作品をすべて観た

ということになります。


ショーン・コネリーボンドの作品群では「007とはなにか?」「スペクターとはなにか?」がよく分かりました。ここをしっかりと観れたおかげで、「007 スペクター」のOPと本編を十二分に楽しめたと思います。

「女王陛下の007」と「007 死ぬのはやつらだ」も、「007 スペクター」における重大なオマージュ元になっているので、視聴して良かったです。特に「女王陛下の007」を複数回観れたことで、「007 スペクター」のOP、本編、ラストを自分なりに楽しむことが出来ました。

ダニエルボンド作品群の復習は「007 スペクター」を観るうえで必須です。用語などがバンバン出てきますし、物語や人物の関係性を理解していた方が、よりすんなりと、グッと物語に引き込まれるでしょう。



合計10作品を観てきた上での、私が感じる007シリーズの魅力は「憧れ」です。

007=ジェームズ・ボンドは、とにかく我々庶民、特に「男」が憧れる要素をほぼ全て持っているキャラクターなんですね。


女にモテる、戦闘は強い、スーツやタキシードの見惚れる着こなし、絶妙なジョーク、危機的状況でも見せる余裕、世界を股にかけた活躍、高級なホテルに泊まり、高い酒を飲み、ギャンブルで楽しむ、そして「プロ」としての技術と意志…007とは、私たちが憧れてやまないことを全て見せてくれる、体現してくれるキャラクターなんです。

物語の魅せ方でも、その方向性が分かります。007というシリーズでは、基本的にボンドは成長することはなく、終始「完成された男」として出ているんです。つまり、彼自身の物語を描いていくのではなく、「完成された男」の様々な活躍を描いていく…人の外面と状況で物語を描いていくという独特な作風が形成されています。


映画的魅力よりも「007らしさ」を貫いてきたことには、そういった「憧れ」部分がキモだということを製作スタッフも分かっていたからなんでしょう。しかしダニエルボンドは、そこを敢えて大幅に「外して」きた…完全に全てがつながっている、ボンドの成長物語として描かれています。ここからも、ダニエルボンドが負わされた「役割」を垣間見ることが出来ます。





■ダニエルボンドが背負わされた「役割」とは?

ダニエルボンドは、その登場作である「カジノ・ロワイヤル」から、ある重大な「役割」を一貫して背負っています。これは、物語的にも007というシリーズそのものにも当てはまる、とてもメタ的な役割だと言えます。

カジノ・ロワイヤルでは「ダニエルボンドが007になる話」が、007的お約束を匂わせる程度で描かれていました。

慰めの報酬では、「ダニエルボンドの00エージェントとしての完成」が独自のスタイルで描かれています。

スカイフォールでは、「ダニエルボンドとMの死、新生」をメタ構造全開で描き切っていました。



つまり、ダニエルボンドの一連の作品群では「007としての成長」が一貫して描かれていますが、同時に「現代における007シリーズの復活と新生」を描いてきた物語でもあるのです。ダニエルボンドとは、誕生と同時にメタ的要素を含んだ活劇を行うという「役割」を背負わされていたわけなんですね。007の歴史に囚われた「007映画としてのダニエルボンド映画」であって、本当の意味での「ダニエルボンドが作る007映画」にはなっていないと、私は思います…。そんな中で今回の「007 スペクター」はどうだったのか…!







■感想

前置きが長くなりましたが、今までの話をまとめると

・「007 スペクター」は60年代の007を復習するとより面白くなる

・ダニエルボンド作品群の復習は必須

・007は「完成された男の活躍」を描くシリーズだったが、ダニエルボンドは「ボンドの成長」を描いてきたシリーズ

・ダニエルボンドは「現代における007シリーズの復活と新生」という役割を背負っている

ということになります。



それでは、ここから「007 スペクター」の感想に入っていきたいと思います!(ここまでで約5000字)



もう一度、全体的な感想を書きますと、

・ダニエルボンドの「物語」と「役割」にけじめをつけた一作

・「007 スカイフォール」に引き続き、メタ的な作品では?

・突出した、画面の緊張感演出

・OP陶酔

・詰め詰めな割にそれぞれの要素が妙に薄い

・悪役の魅力不足

という感じになります。いや~しかし148分は長かったですね…。





ダニエルボンドの「物語」と「役割」にけじめをつけた一作

「007 スペクター」では、ダニエルボンドの作品群で起こった事件、その全ての黒幕である「スペクター」という組織との対峙と決着が、60年代007作品のオマージュたっぷりに描かれていました。ヴェスパーの死、MI6の壊滅、Mの暗殺…それらすべてを仕組んだ男、義兄オーベルハウザー=007最大の敵「ブロフェルド」にダニエルボンドが挑み、今までの「物語」にけじめをつけていきます。しかし今回のダニエルボンドのスナイピングスキルは常軌を逸していましたね…!


それはつまり、今までのダニエルボンド映画=「007を現代に復活させるための007映画」という構造を持った、いわば007の歴史と「役割」に囚われ続けたダニエルボンドが、そこから解き放たれる為に全てのけじめをつけた、ということではないでしょうか?

これは、今までのMI6施設の爆破、銃を投げ捨てる、愛する者を守り抜く、アストンマーチンでの旅立ちをしっかりと見せていることからも象徴的です。007的要素を、MI6から全て排除しているわけですね。


前述した通り、この「007 スペクター」以降は恐らく「007映画としてのダニエルボンド映画」ではなく、「ダニエルボンドが作る007映画」になっていくのだと思います。今後の続編は、主に次の3つのパターンではないでしょうか?

①マドレーヌとの死別により、新生007として完成されたダニエルボンドが誕生。

②新しい007が誕生。「ジェームズ・ボンド」は世襲制であった…とか。

③マドレーヌ?なんだいそれは。⇒完璧な「007方式」に。


しかし…!仲間に全てを託し、007的要素が全て無くなったMI6から去った、愛する者と戦いから去ったダニエルボンドには、このまま安らかに生活して欲しいと願う自分もいるのです…!この気持ちは仮面ライダー鎧武以降初です。




●「007 スカイフォール」に引き続き、メタ的な作品では?

「007 スペクター」では、マドレーヌとオーベルハウザーという新しい中心人物が登場します。この2者が、物語的にもメタ的にも対照的な存在あると思います。マドレーヌは「何故ボンドに惚れたか、惚れられたか問題」があるので、そこについても書きたいと思います。


マドレーヌとは何だったのか?

端的に言うと、新生ダニエルボンドを生み出すための役割を背負った女であると思います。「女王陛下の007」におけるトレーシーにあたるキャラクターでもありますね。

ボンドに安らぎを与えられる唯一の女であり、ボンドを戦いの連鎖から引き離す女=007の呪縛からダニエルボンドを救い出す女、そして、ダニエルボンドを新たな戦場へ送り出す役割を背負った女…。物語的にもメタ的にも、ダニエルボンドを前へ進めるための女であるわけです。


ヴェスパーが死に、カミーユは去り、ボンド自身に唯一引導を渡せる相手だったMももういない。マネーペニーは彼氏持ち。そんな中で、ボンドを戦いの渦から救い出せる存在(=今までの007の歴史からも救い出す)として現れたのが、今回のマドレーヌなのではないかと。

「女王陛下の007」のオマージュが終わった今、マドレーヌが死ぬことで「新生007」が誕生するのでしょうが、それは今後の話。しかし、このまま終わってほしくもある…何故なら前述した通り、ダニエルボンドのすべてにけじめをつけているからです。



マドレーヌとボンドの関係性

まずマドレーヌのキャラクター像ですが、虚勢と度胸と精神的弱さを内包した人物であると思います。父親との複雑な関係の中で育った強気な娘が、ボンドと出会うわけですね。そして、列車でのやり取りの後ボンドに惚れると…。このマドレーヌ⇒ボンドという気持ちの動きが、直接的に描かれる事無く唐突に出るんですね。


ここで何故マドレーヌがボンドに惚れたかというと、恐らく「吊り橋効果」が大きいのだと思います。そしてもう一つ、大きな要素があります。思い出してみて下さい…マドレーヌは大学卒業後にすぐ「国境無き医師団」に加入し、脱退後は雪山の診療所で生活していました。つまり……理系の理想ばかり語る男の中にいた為、ボンドのようなフェロモンムンムン男に耐性が無かったのではないでしょうか?この部分、大きいと思います‼


そして終盤に、マドレーヌはボンドに別れを告げます。ここに否定的な意見が集中していますが、これはこの時点のボンドが「スパイの世界」に生き続ける事を決めている為、ボンドに迷惑が掛からないように自分から身を引いたのだと思います。スペクター基地でのボンドの危機は、マドレーヌが自分から同行したことが原因とも言えますからね…。しかし、結果的にこの「別れの決断」が、ボンドを戦いの連鎖から引きはがすことになったのですが。


次に、何故ボンドがマドレーヌに惚れたかについてなのですが、それはマドレーヌが「銃のトラウマ」を跳ね除け、危機にある自分を助けようとしてくれたからではないかと思います。「女王陛下の007」でも、絶体絶命のピンチに「考えてすらいなかった」女が助けに来てくれたことで、ボンドは決定的に惚れていました。

そして、ダニエルボンドではかなり明確な「年下の女」だったと思います。年下の、守るべき女という認識から、共に戦う仲間、心を理解し合える女性と認識が変わっていったのではないでしょうか?それこそ、自分の事を真摯に考えてくれる女であるわけですし。

その「認識の変化」と、マドレーヌの掛け値なしの思いに、ボンドは惚れたのではないでしょうか?



振り返ると、

・マドレーヌは物語としてもメタ的にも、ダニエルボンドを救い出す存在

・マドレーヌは免疫のない肉食系のボンドに惚れた

・マドレーヌはボンドの為に、自分から身を引いた

・ボンドは「掛け値なしに助けてくれた女」であるマドレーヌに惚れた

ということだと思います。マドレーヌ、いいキャラでしたね…演じるレア・セドゥさんも素晴らしかった…。描きこみ不足が悔やまれます。




オーベルハウザー=ブロフェルドとは何だったのか?

端的に言うと、ダニエルボンドに過去を背負わせ続ける役割を持ったキャラクターであると思います。そして、色々と制作陣が抱えるダニエルボンドへの気負いを象徴するキャラクターなのではないでしょうか?

オーベルハウザーは、終始ダニエルボンドへの妄執を持つキャラクターとして描かれています。ボンドの義兄として幼いころから一方的な因縁を持っているわけですが、これはダニエルボンド初期作品からの、制作陣の思惑を象徴しているように思えます。


そして前述した通り、ダニエルボンドにおける全ての事件の黒幕でもあります。それは、ダニエルボンドに「007の復活と新生」という役割を負わせ続けた存在であるとも言えます。スペクターは「007の歴史」そのものを象徴させる悪役であり、その首領=ダニエルボンドに執着し続けた近年の007映画、制作陣=オーベルハウザーが敗れる(MI6に逮捕される)ことで、ダニエルボンドが背負わされ続けたもの「007の復活と新生」から完全に脱却したことを示しているのではないでしょうか?

そして今後、新生スペクターと、新生ダニエルボンドとの戦いが繰り広げられるのだと思います。もしくは新生ボンドか…。


しかし、クリストフ・ヴァルツさんのオーベルハウザーがこれっきりというのも寂しいですね…。流石クリストフさんと言わんばかりのアクの強い演技だったので、是非続投して欲しいものです。





●突出した、画面の緊張感演出

特に序盤の、葬儀からの一連のシーンと会議場のシーンですね。

まず葬儀のシーンですが、ピントの合っていない部分に刺客がヌッと出てくる…堪りませんね…!とにかく、ピントのあっていない部分で繰り広げられる描写の緊張感とダニエルボンドのカッコよさが堪らないんですよ…!そのあとの官能的なシーンも…。

会議場のシーンでは、無音や逆光の中進む会議の緊張感と言ったら…!スカイフォールでも息を飲むような緊張感あふれるシーンが多かったですが、今回もやられてしまいました。



●OP陶酔

もう、スペクター=タコですよ‼

あの官能的動き…スペクターの事を知った上で見ると、正に陶酔してしまいました。「女王陛下の007」のようなラブストーリーを予感させる演出、ダニエルボンドのこれまでの作品群を思い起こさせる「タコが絡む女性と銃」等等…見惚れる深さの映像てんこ盛りです。「007 死ぬのはやつらだ」のオマージュに溢れる映像も、サム・メンデス監督のオタク魂を感じますね‼


これを観るためだけに1,500円払う価値があります。




●詰め詰めな割にそれぞれの要素が妙に薄い

ここからは不満点について書いていきたいと思います。

多くの方が仰っていますが、148分という上映時間の割には、内容が薄いんですよね…。

原因としては「007の復活と新生」というメタ的テーマを描くために、幼いころからの因縁を持つオーベルハウザーとの決戦、マドレーヌとの恋愛、ダニエルボンドとMI6の新生等等…軸になり得る要素がありすぎる為だと思います。そして、それらの要素がどれも中途半端な描き方になってしまい、それぞれの観客の脳内補完前提の作りになっていることは否めません。

特にオーベルハウザー、マドレーヌ関連はあまりにも薄いですね…。オーベルハウザーは何故スペクターの首領たり得たのかが描かれていませんし、ボンド自身からの因縁を全く感じることが出来ませんでした。マドレーヌは劇中の描写のみでは、コロコロ感情が変わる女に見えてしまいますし…。


個人的には「007 慰めの報酬」位の長さが一番ちょうどいいのですが…。




●悪役の魅力不足

オーベルハウザーの描きこみ不足は前述している通りですが、Cというキャラクターの「いかにも感」があざとすぎるというか…出てきた瞬間退場までの道筋が分かるキャラクターなんですね。

全体的にも既出感が漂っていて、悪役との戦いややり取りに目新しさがあまりないのも残念な所です。情報戦の描写、時代遅れ描写、終盤の流れなんて何回観た事か…。007の敵役や展開はアクの強さが魅力の一つだと思うのですが…。特に今回は148分もあるので、どうしても終盤は疲れてしまいます。ヒンクスは最高でしたが…!





長々長々と自分の感想…というより解釈を書いてきましたが、とにかく言いたいのは



007を好きになって良かった



ダニエルボンドを好きになって良かった



スペクターを観れて良かった



ということです!スペクターのポスターアートに惚れこみ、007を観始めて本当に良かったと思っています!


最後に、ここまで読んでくださってありがとうございました‼




■合わせて読みたい

過去の007シリーズの感想。


同年公開のスパイ映画。これくらい軽いボンドに立ち返ってもイイかな…。

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